『銀河鉄道999』といえば、ひとりの少年の成長を描いた物語とも言われています。自らの経験のすべてを漫画に投影する、とおっしゃる松本氏は、どんな環境の中で生まれ育ち、何がきっかけで漫画家を目指したのか。子ども時代に迫ります。 |
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私は7兄妹の真ん中で、姉も兄も本が大好きでした。SF小説をはじめ、漫画なども身の回りにたくさんありました。特に上の姉が少女漫画が大好きで、まだ幼稚園に行く前の私に、漫画を読んで聞かせてくれたんですね。話の内容を頭の中に思い描いて、字が読めるようになると、私もいつの間にか少女漫画を読みあさっていた。ふとんをかぶって読みながら泣いたこともあった(笑)。
一方で、父親は大の機械好き。家にはカメラや35mmの映写機がありました。それを使って、父がどこからか持ってきたアメリカのアニメーションを観て楽しんでいましたね。 |
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そうですね。戦後の日本は漫画ブームのまっただ中。いつの間にか読むだけではなく、自分で描くようになっていた。小学校三年生の時、はじめて描いた漫画に「火星悪魔」なんてタイトルをつけてね。おもしろい、なんて友だちにおだてられ、たった8ページなのに長編大作なんて言ってみんなに見せていました(笑)。 |
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ある夜、実家の小倉で親父と夜空を眺めていたんです。私が空をみて、
「なんてきれいなんだ。星の海を飛んでいるみたいだ。火星人はおるか?」と聞くと、親父は、
「おるかもしれん。おらぬかもしれん」。
こう言ったんです。そのひとことで刺激を受け、いてもたってもいられずにあらゆる天文書を調べ尽くしました。勉強というより、いろいろな専門書を、好きで読んでいましたね。小学校5年生の時に出会ったのが「大宇宙の旅」です。 |
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京都産業大学の初代総長だった荒木俊馬博士が書かれた本なのですが、挿し絵まで博士が描いていて、生命の科学、宇宙の知識はこの本で把握した、と言ってもいいくらいです。姉に「買ってくれ」と頼みましたところ「あんたの漫画が新聞か雑誌に載ったら買ってあげる」と言われた。その直後、中学生になって『毎日中学生新聞』に私の漫画が連載されたのです。もちろん、姉には約束を果たしてもらいました。 |
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はい。さまざまな本を読んで宇宙の概念に目覚め、これは漫画ばかり描いている場合じゃない(笑)と思いました。ある日、小倉の古本屋でH.Gウェルズの『生命の科学』という本が全シリーズ並んでいるのを見つけ、すぐに買いました。何と全部で300円という破格値で!H.Gウェルズは、『タイムマシン』や『ドクターモローの島』などで一世を風靡した、SF作家の巨匠として有名で、この学術全集を手にした時、H.Gウェルズが学者であることをはじめて知りました。
これだけの土台がないと、SF小説は書けないのか。それをきっかけに、ロケット工学や電気工学、流体力学などの本を片っ端から読みました。日本におけるSF小説の草分けは、草野十三です。 |
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もちろんです。本や参考書などの資料だけではわからないものもあります。だから、体験が大切になる。大きさや空気感、においや温度など、実感としてとらえてはじめて描けるようになるものです。すべては自らの興味と好奇心がはじまりです。だから、少しも苦ではない。 |
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今の子ども達は、そういう意味では実体験が少ないんじゃないかと思います。親に守られ過ぎている環境の中、木から落ちる、なんてもともないでしょう。子ども達には、もっともっと自然の中で暴れまわって欲しいと思いますね。木から落ちれば、落ち方だってうまくなる。ただし、ルールを守りなさい。
弱いものをかばえ。告げ口をするな。
弱いものいじめをしない。卑怯なことをしない。私の子ども時代は、それが仲間同士の鉄則でした。 |
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約束を守る、見かけだけで人を判断しない…。当たり前のことが当たり前にできるようになって欲しい。そして、子ども時代の夢を、大人になっても忘れないでいて欲しい。今の子ども達に、そんな思いを抱いています。 |
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